2012年5月30日水曜日

東京奇譚集(村上春樹)を読んだ

2005年に刊行された村上春樹著「東京奇譚集」を読んだのでとりあえず感想文。

 5つの短編から構成され、共通することは以下のとおり。
  • 主人公の身の周りに起きた偶然や奇妙な出来事があり、それをきっかけに主人公が少し救われること
  • 必ずしも東京周辺を舞台としているわけではないが、主人公が東京居住者であること
 村上春樹としては何か完成形を作るための試行錯誤的な作品のように思われる。ただ、90年代以降テーマにしてきた物語による癒しというのが確実に形になってきている感触がよくわかり、現実世界を生きている読者としては心の癒しとまではいかないが、一種のリラックスした気分になれたのは事実。
 作者は「アンダーグラウンド」で現代の日本人はジャンクをかき集めて作った物語によって心のバランスを保つしかないのではないかといっていたのが、最近読んだ「海辺のカフカ」と同様に今作品もその延長上にあることが確認できた。今後の作品に更に期待していきたい。(1Q84をもう一度読みなおそうかな。。)
 また、作者が意図しているかどうか不明だが、短篇集の中に具体的な名前(人の名前、地名、曲名、などなど)や事象がたくさん書かれているので、読んでいる側は物語のどこかに自分とのなんらかの共通項(登場人物の名前や地名、年齢など色々な部分で)を見つけられる可能性が高い。そのため読者が(若干の)感情移入がしやすいという効果があるのではないだろか。著名に「東京」を付すことで想定読者を限定しているので余計に著者がそのような効果をねらったと考えるのは私の考え過ぎか。
 最後に「品川猿」が最も印象深く感じた。主人公は女性であるが、色々な点で不思議なほど私の個人的経験や最近身の回りで起きたことと符合しており、ストーリーはまさにジャンクなのだがなぜかストーリーに引きこまれ、適切なエンディングもあり、読んでいる間は現実世界と小説の世界がつながっているかのような感覚でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿